· 七つの茨道

鈴ちゃんと、伏木之さんが死を選ぶ…。
私にはわからなかった。
…今は二人共、命の存る限り生きるでしょうけど。

でも、今になって、私は過去の二人が死を選んだ理由をわかってしまったのだ。
狗邏と私は生きる時間があまりにも違い過ぎる。
私が死んだとしても、彼はずっと、ずっと生きる道を選ぶ。
狗邏に死んで欲しい訳じゃない。

ただ……
私は彼の様に強くは無い。

百年とはなんて長いのだろう。
適当に学校へ行って、やり甲斐も無く仕事をして、
どーでもいい男と付き合って、子が生まれれば、母として………
くだらない未来予想図だった。
そして、安定した未来の筈だった。

それなのに今は死に怯えている。
死ぬ事が怖い。恐ろしい。
誰の記憶からも消える。
三面鏡が付いた化粧箱は、私の不安気な表情を包み隠さず写す。
やめてよ。
…やめてよね。
熱い涙が頬を伝う。
死にたくない。いやだいやだ 怖い。

鏡に映る''私''の涙を掬う。触れられやしないのに…
いや、確かに、今、彼女は私の意思に反して瞬きをした。
ゆっくりと目を閉じて、再び開く。

妖界に長く居るとは言え、未だ、怪奇現象には慣れない。
逃げ出そうとした足の力は抜け落ちた。
瞳が映し出す、鏡の中の''私''に怖さはなく
寧ろ、手招きをしてる様にも見えた。
「もし、転生(し)ななくても、いいのなら後から行ってあげるわ」
''私''はその言葉に頷くともう二度と出て来なかった。
鏡は死を帯びた人間だけを淡々と映している。

朝の通学風景は、何一つとして変わらない。
「屋上の幽霊! あれぜーったい夏休み中に見たいんだよなー!」
適度に着崩した制服が彼を学生だと証明する。
隣に居る学生は呆れた顔をして
「わー、出たよ アホの諺」
相手をする気はあまり無いようだ。

「幽霊なんじゃし、夜に出るんじゃないのか?」
「でも、夜に学校行っちゃダメだよ」
隣で話を聞いていた女学生二人も会話に混ざる。

「それみろ、雪ちゃんも反対してるぞ」
「ぐぬぬ~ 夜限定じゃないかもしれないだろ~!!
幽霊とは言え、学生なんだし!」

''私''はその様子を上から見下ろしていた。
人影の無い屋上で。
「彼が来るわ。」
綺麗な手でドアノブを捻り、美しい足で階段を踏み潰す。

「……どこだろうここ」
辺りをきょろきょろしながら、教室を探す。
理科準備室…、音楽室……、美術室…………、3年A組…………
「迷子…?」
三年生であろう長身の男が話し掛けて来た。
「転校初日で!その…周り見ててもいいって言われたから、探索して…そしたら迷っちゃって……」
男は柔らかな笑みを浮かべ、「職員室に案内するね」先を歩いてくれた。
「ありがとうなの~! 」
少女は、ハッとした顔で、「あ、ありがとうございます!!」と、三年生に向かって言い直した。

「B組は転校生来るんだって~ いいなー って、大和は興味無いの?」
「俺が転校生だとしたら、野次馬に集られる歓迎のされ方は嫌だと思っただけだ。」
「大和君、す、て、き~!」
「ええい!鬱陶しい!くっつくな!」
「はぁ~あ、僕もくっつくなら真香さんみたいのがいいよ~……」

「雪ちゃん、転校生君の名前なんて読むんだろ?」
「いぬ…?」
「きっとヤンキーだよ、ヤンキー 当て字だもんこれぇ」
「決めつけは良くないぞ、諺。ほら、直接本人から聞けばいい。名前くらいな」

教室は全体的に騒がしく、いつもA組から叱られている。
教師が来てもざわつきの収まらないクラスではあるが、ドアを通るのが美少女であれば話は別だ。
「おはよう」
思い思いの挨拶を返し、疑問をぶつけた。
「あ、姫ちゃん これなんて読むかわかる?」
彼女は、嬉しそうに微笑んでこう答えた。
「狗邏って読むのよ。」

「妹と一緒に転校して来ました。」
転校生の自己紹介は簡単に済まされ、
担任は彼の座る席を指差す。
「わー、姫ちゃんとこじゃん」
クラスの男子がざわめきながら、転校生の動きを見つめる。
「こっちよ」
彼女は半袖から伸びた腕を振る。
「''私''の名前は椎名よ」
「…よろしく頼む 椎名、姫百合よ」
例え、これが鏡に映る虚像だったのだとして。
神様が、神様にならないのだとして。
この眼は私のモノだ。
義眼が映し出すのは、化粧に塗れた美しい''私''だけ。

All Posts
×

Almost done…

We just sent you an email. Please click the link in the email to confirm your subscription!

OKSubscriptions powered by Strikingly