· 七つの茨道

小さな頃から嘘吐きで。

周りの人がなんでも欲しい物をくれて。
周りの大人達はご機嫌を取ってくれて。
そんな話。
途方もない人生の話。

結界の貼り直しが終わり、ようやく家へ帰れる。

帰り道に大きなデパートが見えた。
そう言えば、最近デパートの内装が変わったと聞く。
買い物は基本的に真香がしてくれているから、最近はさっぱり行かなくなってしまった。
少しだけ立ち寄ってみようかな。

照明の光に照らされ、商品は生き生きとした顔を見せる。
結構、商品の位置が変わってしまっているな。
何か真香に買おうかと思っていたのに。
まぁ、いいか。 ゆっくり見ていけば。
調理道具……はダメだな。
彼女が料理をするからと言って、これを選ぶのは大間違いだ
寧ろ、料理をするからこそ安易に選んではいけない。
使い勝手の良さや、道具に対する愛着。
それは料理のしない僕にとって計り知れないものである。
じゃあ、食べ物か…
うーん、ベターな選択ではあるが…
可も不可もなく普遍的だ。
………今度でいいか。
僕は誰に物を貰う立場だった。
有名なお菓子も、上等な着物も、工夫が凝らされた玩具も。
どれもこれも、僕に向けて充てられていなかった。

これは真香に嫌われない為の、贈り物じゃない。
真香に喜んで貰えたら嬉しい品だ。

だが、どれもこれも、ピンと来なくて
流石に帰ろうかと思った時、棚の隅に置かれた、ハンドクリームに目が止まった。
水仕事の後に! と、書かれた文字を見て、

僕は初めて水仕事の後に手が荒れることを知ったのだ。
彼女の手が白魚の様に美しいのも、きっとこう言った物を買っているからなのだろう。

彼女は何も言わない。
けれど、何も思ってないわけじゃない。

吟味の末、薔薇の香りがするハンドクリームを選んだ。
デパートの帰り道、僕はなんだが急に恥ずかしくなって来た。
その他大勢を器用に誑かしながら相手にするんじゃなくて、
彼女に素直な僕を受け入れて貰いたくて贈るのだから
きっと恥ずかしいなんて思ってしまうのだ。

「お帰りなさいませ。明彦様」
「ただいま」
数秒こちらをじっと見て「お風邪ですか?」
彼女に触れられた事で、僕は初めて頬が赤らんでいる事に気付いたのだ。
「ずっと真香の事を考えていたからかな」
「明彦様はお上手ですね」と、返す彼女の耳が赤くなっていた。

「今日、デパートに寄ってさ、真香が使うかと思って」
先程買った商品を手渡す。
「まぁ、素敵ですね 私めの為に、ありがとうございます。」
深々と頭を下げて、彼女は礼を言う。

クリームを手の甲に薄く伸ばす。
その様を見ているだけで僕はにこにことしてしまう。


周囲に香る薔薇の匂い。
「いい香りですね」
僕はゆっくりと頷き、「真香とずっと手を繋ぎたい。何年、何百年経っても、ずっと。」
しっとりとした、ほんのりと冷たい手から伝わる愛情。
握り合った手は、離れること無く、熱を帯びていく。
「真香の手、好きなんだ」
「明彦様のお手も素敵です…。男性らしいと思います。」
「触りたいのに、離せなくて困ったなぁ」
「……離しても、また、繋いでくださいますよね 明彦様」
美しい。
綺麗で、美しい。
それは愛おしいにも似た感情。
離れた手は再開を誓い、彼女の頬に触れる。

大人になっても嘘吐きで。
彼女が欲しい物はわからなくて。
機嫌の取り方さえ、下手くそで。
それでも、真香は僕を愛してくれている。
僕も真香を愛している。
そんな話。
二人で進む夫婦の話。

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