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はないちもんめ

· Azalea

「かーってうれしい、花いちもんめ」
「まけーてくやしい、花いちもんめ」
「あの子が欲しい」「あの子じゃ、わからん」
「そーだんしましょう」「そーしましょう」

扉の前で懐かしい遊び唄が聞こえる。
小さな子供が遊ぶ様に弾んだ声は、歌い終わると囁きの様に消えた。


歌っていたのは嶺子ちゃんだった。
「こんにちは、春歌さんがみかんどうぞって、言ってましたよ」
彼女の手には蜜柑が握られていた。


「懐かしいね、花いちもんめだっけ、それ」
「乙さんもやりました?」
「小さい頃ね」
「乙さんは取り合いになってただろうな~」
蜜柑の欠片を口の中に放りこむ。
「いつも選ばれてたからあっち行ったり、こっち行ったり大変だったよ」
自嘲気味に笑う俺に、彼女は変わらない表情で言葉を続ける。
「私は最後まで選ばれなかったです。
だから、なんだか面白くないゲームだなぁと思ってました。
あ、それで友達を嫌いになった、とかは、ないですけどね」

俺は彼女の言葉で、小さい頃の思い出が詰まった記憶の箱を開けた。

「乙くんと遊ぶの!!」
「うるせぇ! 乙は、おれたちとニンジャーズになるんだよ!!」
「おままごとしよ~」
皆が腕や手を引っ張って一人を奪い合う。

「俺は一人しかいないよ~」
困った顔を見せれば口々に「わたしをえらんで」
俺はどれも選べなかったし、何をやりたいのかさっぱりわからなかった。
それでも勝手に輪の中心に入れられた。

「乙さんは空っぽの小瓶みたい」
飲み終わった容器を見て彼女は、言う。
「何も無い」
見た目だけが鮮やかな、容器。
それは液体を入れなければ無意味な存在なのだ。

「かってー、 嬉しい 花いちもんめ。」
「かって、 って漢字で変換すると、何になるんでしょうね。」
「…勝利の、勝つじゃないの?」
「飼育の、飼って かもしれませんし、物を売り買いする買って かもしれませんよ」
「負けて悔しい、花いちもんめ…。」


「わざと、かもしれませんね それ。」
「俗説で言えば、花市、つまり体を売る子達の奴隷市場みたいなもので、買った、とか言われてますけど。
権力者は、『この子だけはやめて下さい』と、言われた方を
取りたくなりますからわざと悔しい振りをしたのかもしれません。」

「俺は買われるほど価値があったのかな」
「…小瓶は割れるまで使えますから、次の持ち主の所に行っても平気ですよ。
でも、壊れるくらい、割れて、人になってしまうくらいに、愛を注げたらいいのに。」

蜜柑箱の中身はいつか腐る。
でも、箱自体は腐ること無く、そこにある。

恋人の死も、昔の思い出もみんな、みんな、箱に詰めて部屋に無造作に転がす。
腐り切った中身も、鮮やかなオレンジ色も、全て俺から抜け落ちた。

俺の中身はどこ?
飼ったなら最後まで責任取ってよ

「飼って、嬉しい 花いちもんめ。
乙さんは、私と一緒に|殺人(おままごと)、しようね。その体が狂気で満ちるまで。」

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