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私は君にキスをしない

· 七つの茨道

水が透明な様に、海が青い様に、この関係は変わらないのだと信じていた。
幼き頃から変わらない関係も、いつか重なり合う日が来るのだと。

ヘアゴムを口に咥えて髪を手で持ち上げる。
櫛で整えながら、一つにまとめて束ねる。
一度巻かれたゴムを少し引っ張って、もう同じ工程を繰り返そうとした時、
ゴムは千切れ、拘束から解かれた髪がパサッと落ちる。
「あー、あ……もうっ」
しょうがない。
今日は下ろしたままにしよう。

耳元の髪をピンで留めて、外へ。
冬の寒さはどこかに行き、少しずつ春の暖かさを呼んでいる。

今日はまゆみと遊びに行く予定なのだ。
天気で良かった~ なんて呑気に歩いていると、
「…綾和……?」
見知った顔が向こう側を歩いていた。
声をかければあちらも気付くかもしれない。
だが…

「誰だろう あの人…」
隣には見知らぬ女性がいた。
少し背の高い人。

…………帰ったら聞いてみようかな

思えばこの時、胸にざわつく想いを
彼に伝えなかったのが、大きな間違いだったのだと後に思い知るのであった。

夕刻、女性について尋ねる事にした。
彼は「よく行く喫茶店の店員さん」と言った。
ま、そうよね 綾和はナンパなんてしないだろうし
あー、スッキリした やっぱ気になった事は聞くべきよね~

だって、綾和とは…ずっと……一緒だもの

綾和の家と私の家はさほど離れておらず
外の掃除をしていれば、家の出入りはわかる。
休日の午前中は、少し静かで寂しい。

綾和でも、来てくれないかな なーんて、思ってたら
綾和が玄関から出て来た。
「おはよう」と挨拶をしたものの、すぐ走り出してしまった。
なんだ、つまらないの。 昔はもっと遊んでくれたのに…

「転ばないようにね~」
彼の弟であるつつじがゆっくりと後ろ姿に声をかける。
「南美ちゃん おはよう」
「おはよう 綾和どうしたの? 急いでるみたいだったけど」
「んー、友達とお勉強するんだって」
昔から変わってしまった様に思えたけど、綾和は全然変わってないのね
…少し安心した。
「昔から真面目だったもんね 綾和」
「…そうだね 昔と変わらない所もあるよね~」

ひらひらと舞う黒いマントが小さくなるまで二人で見送った。
勉強の息抜きに、街をぶらぶらしようよ
そう誘って、久しぶりに綾和と喋った。
…昔より、大人びた表情は胸をドキりとさせる。

小さな街で見るものなんて箍が知れているのだが、

それでも私は彼と居られるだけで…

「綾和君」と、居られる… 
我に返り思考回路を邪魔をする声の主を見る。
そこには「喫茶店の店員さん」と、言っていた女性が鞄片手に手を振っていた。
「杏奈さん 奇遇ですね」
「買い物に来てたの 買い出しってやつ」
綾和の後ろで二人の会話に耳を傾ける。
「後ろの子は… 彼女?綾和君も隅に置けないね」
「違いますよ!!」
私が慌てて否定するも、杏奈と名乗った女性は笑って彼を小突く

「綾和も何か言った方がいいよ…  勘違いされたら困るじゃない
私は別に……困ることも無いけど……」
小さくなる声は彼からどう思われてるか不安になったからだ。
幼い頃から許嫁と言われて来たとは言え、改めて関係を言葉にすると恥ずかしい。

「杏奈さんが一番わかってるでしょう?」
「あはは そうだね」
これ以上なにか聞かれたら綾和の方を見れなくなってしまう
「わ、私、こっちで待ってるから!」
そそくさとこの場を離れて、恋の熱を冷まさないと。

彼女が走り去った後、彼は呆れた顔で私に真意を問う。
「なんで、あんな事言ったんですか…」
「ちょーっと嫉妬しちゃったかな」
彼らは、歳だけを見ればお似合いのカップルと周りから思われてもおかしくない
それに、彼女は許嫁と呼ばれる存在である。

「私が好きなのは杏奈さんだけですよ。彼女は…大事な幼馴染みにしか見えません。」
きっと、私は底意地悪く、性格の悪い人間なのだ。
「…もっと、君の事、お勉強しなきゃ、ダメかな 」
背伸びしたら君の唇に届きそうな程近い。
「君も、私の事知って…嫌いにならないでね」
赤く染まった顔は「なりません! 好きです! ずっと好きですから!!」
「…お店の中で抱きしめちゃ駄目だよ」
躾られる犬の様に抑えた衝動に耐える彼の表情。
「明日、会えますか…」
勿論よと、彼の手を握る。

綾和君の頭の中、私でいっぱいなんだろうな。ふふっ

綾和君のお嫁さんは一人でいいのよ
二人目なんて、許可してあげない。

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